平成11年度卒業研究優秀賞

陳 珮怡

『森で深呼吸』(金属工芸)

私は、自然が好きだ。森や山、海、そういう自然の中にいると、心が和やかになる。自然と接するたびに、自然の力に驚く。風化された石、造山運動による地殻変動などなど、図鑑を見ても何も感じないが、実際に現地へ行って目で見て身体で感じ、そこに流れている空気を吸うと、感動と感謝の気持ちがいっぱいになる。さすがに、人間よりも数億年前から生きているから、図り知れない力を持っているのは当たり前と思う。
そこで、私が思いついたことは、そういう生命力のある自然形態を何らかの形で自分の制作に取り入れたいと思った。積み重ねたアイデア・スケッチの中で、この「森で深呼吸」が誕生した。この作品は、全て鍛金という技法を用いて制作した。鍛金は金属の伸展性を利用して、それを金槌でたたきながら板状、線状、または立体的に成形していく金工技法だ。金属は叩くことによって形を変えるばかりではなく、より硬く、強くなる。素材としては、金、銀、銅、鉄、アルミニウムなどさまざまあるが、私が今回選んだのは銅だ。それは、使い慣れていることを含め、取り扱いやすく、耐候性があり、趣のある緑青が出るからである。大きい作品なので、一枚の板からの成形が難しいため、各部分を分けて作り、それを組み合わせ、溶接して組み上げていった。
作品が完成に近づくことに伴って、自分の子どもがようやく誕生するような嬉しい気持ちで一杯だった。はじめての大きい作品制作なので、戸惑いと挫折感を伴いながら、締め切りの時間と争った。これを期に、その時指導してくれた先生をはじめ、一緒に制作し、励ましあいながら、助け合った金工室の皆さんに感謝の気持ちを申し上げたい。

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